そもそも歌が好きだとなどいう連中に出会ったら、心してかからねばならぬ。 その「歌」が「カラオケ」などではなく、「合唱」であったりすることがあるからだ。 諸君が初対面の相手に「合唱をやっています」などと切り出されたところを想像してみよう。 一体どのように反応したら良いと言うのだ。 「素敵なご趣味ですね」 「一度是非拝聴させていだきたいです」 「合掌」…… どれもこれも月並みな上に、まるで心がこもっていない。連中もそんな社交辞令にはうんざりしているはずだ。 そこで一言こう言ってみよう。 「パートはどちらですか?」 連中はたちまち目を輝かせ、ソプラノだとかバスだとか語り始める。 「いや、普段話している声はこうなんですが、歌うと低いんですよ〜」 などと聞いてもいないことを得々と語りだして止まらない。 諸君はここでひるんではいけない。続いて所属する合唱団を問うてみよう。 連中が「“ひびこん”です」などと意味不明な単語を発しても驚いてはいけない。 「ひび」は日比谷、「こん」は混声の意なのである。 連中が「ひびこん」と称した時は「あ、これは“日比谷混声合唱団”の事だな」と脳内で翻訳せねばならない。 ここで注意すべきは日比谷とは地名ではなく、日比谷高校に由来する点だろう。 さて、ここで諸君に必殺の質問を伝授しよう。 「“ひびこん”とは、あなたにとってどんな合唱団なんですか?」 それまで嬉々として語っていた連中が少し大人しくなる。そして少し微笑みながら、照れくさそうに語り始める。とても大事なものを抱きしめるように。 諸君はその言葉を聞いたなら、きっと連中の歌が聴きたくなるはずだ。 そんな想いが集まって出来上がる「合唱」とは何なのか。きっと、きっと聴いてみたくなる。 日比谷混声合唱団――東京都立日比谷高等学校合唱部OB・OGを中心に、自然発生的に結成された「日比谷高校OB合唱団」を前身とする。 1980年から20年に亘り、同校合唱部の指導をしてきた誉田昭宏氏を常任指揮者に迎えた1993年頃より「日比谷混声合唱団(通称:ひびこん)」を団名とする。 メンバーは学生から社会人まで年齢、職業も幅広い。 互いを拘束しあわない緩やかな結束と、強い信頼感で結ばれた固い絆を同時に持つ稀有な集団である。 豊かな表現力、高い音楽性で、古典外国曲から現代邦人作品まで幅広いレパートリーを持つ。 |